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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)729号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士川本作一、同佐伯源の上告理由について、

原判決は、先ず、「控訴人等(被上告人等)が本件神和村字津和地に存在する柳網と称する鰮網漁業のいわゆる「社内」であつて、被控訴人(上告人)と共に鰮網漁業に携つていること、同網における水揚は、漁業のための必要経費(油代、薪炭代、塩代、飲食代等)を控除し、その残高の二割を更に控除し、残額八割を社内及び引子の日役賃として各人の現実の労働日数に応じて配分されていたこと(従つて、水揚が少く必要経費が多ければ配分すべきものがない場合も生ずる訳であるが本件ではその計算関係並びに必要経費は何人が負担支出するかについては少しも判示されていない)、津和地には柳網の外池田網、若島網、玉井網なる三統の鰮網の存することは当事者間に争がない」旨判示し、次に、挙示の証拠を綜合すれば、「右三統の網は、その成立の過程において必ずしも同一でないものがあるが、何れも社内により構成され、社内の中いわゆる「宿」すなわち社内の集合場所を提供するものを「網元」と称し鰮網漁業の経営も、経理に関する事項は社内全員が宿に集合して協議決定し、漁業に必要なる施設、資材は通常網元に保管せしめ、また外部に対しては通常網元をして網を代表せしめていること、水揚の分配方法は、まずこれより漁業に必要なる通常経費(油代、薪炭代、塩代等)を控除し、その残額の二割を歩金として更に控除し、八割を社内及び引子と称せられる労務者に対する日役賃として現実の労働日数に応じて分配するが、網元に対しては世話料として特に一人分の日役賃を加算して支払つていること、引子は出漁の際随時雇われて網曳の労務に服するのであるが、社内は出資の前後にも漁具の整理、格納等の労務に服するのみならず、漁船、漁網その他の漁具、格納庫等漁業経営に必要なる施設、資材を設備、修理してこれを整備維持することもその共同責任に属し、これら施設、資材を設備、修理する費用は前記二割の歩金中から支出し、余剰あるときは社内(網元を含む)全員に平等の割合をもつて分配せられること、当初網を設立する際、特定の社内が金銭、或は漁業に必要な設備資材を出資したか否かに関係なく、設立後においては、漁業経営に必要なる施設及び資材は社内(網元を含む)全員の権利(持分は平等)に属するものとされていること、特定の者が社内となる場合には他の社内全員の承認あれば足り、金銭その他の財産を出資することを要せず、また、社内を辞任し脱退する場合にも他の社内全員の承認を得れば足り、脱退と同時に漁業経営に必要なる施設、資材に対する権利を当然喪失しその際持分を金銭に評価してこれを払戻す等のことをしていないことが認められる」と認定し、さらに原判決は、「本件柳網も前記三統の網と同じく津和地において鰮網漁業を行いこれと同じく社内、引子と称せられる者を有し、水揚より必要経費を控除した残額の二割が何人に配分せらるべきものであるかの点は別として前記三統の網におけると同様の方法によつて水揚が処分せられることは冒頭記載の通りであるから、本件柳網の組織、社内の権利義務、前記二割の金員の配分方法等も反証なき限り前記三統の網におけると同様なるものと推認すべく、被控訴人が前記三統の網における所謂網元たる地位に在る者であることは原審における控訴人多坂岩吉、当審における控訴人鴻池徳蔵各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合してこれを認めるに困難ではない」と認定した上、ただちに、「以上認定の事実に徴するときは、本件柳網及び前記三統の網は何れも組合に類似するものであつて、民法中組合に関する規定と前記認定の津和地における慣習とによつて規律せられるものと解するを相当とすべく、従つて漁業経営に必要なる施設、資材等の財産は、各社内(網元を含む)の共有(厳密なる意味においては合有)に属し、その持分は平等なるものといわなければならない」と判示したことは、その判文に照し明らかなところである。

されば、原判決は、本件柳網を民法上の組合に類似するものと判断し且つ本件津和地における池田網、若島網、玉井網なる三統の鰮網に関する前記認定事実を以て津和地における慣習であると判断したものという外はない。しかしながら、原判決の判示するように津和地には本件柳網の外池田網、若島網、玉井網なる三統の鰮網の存することは当事者間に争がないからといつて、右三統の鰮網に関する原判決の前記認定事実を以て直ちに同地における慣習であるとすることは、後に判示するところと相俟つて、到底是認し難いものといわなければならない。されば、論旨第三は結局その理由があつて、原判決は、この点において破棄を免れない。

また、組合契約は、各当事者が出資を為して共同の事業を営むことを約するによつてその効力を生ずるものである。従つて、原判決認定のように本件柳網が「当初網を設立する際特定の社内が金銭、或は漁業に必要な設備、資材を出資したか否かに関係なく、設立後においては漁業経営に必要な施設及び資材は社内全員の権利(持分は平等)に属するものとされており、また、特定の者が社内となる場合には他の社内全員の承認あれば足り、金銭その他の財産を出資することを要せず、また社内を辞任し脱退する場合にも他の社内全員の承認を得れば足り脱退と同時に漁業経営に必要なる施設、資材に対する権利を当然喪失しその際持分を金銭に評価してこれを払戻す等のことをしていない」ものとすれば、著しく組合の性質に反するものといわなければならない。それ故、原判決が、本件柳網をもつて組合に類似するものとし、被上告人らがこれに対して原判示の如き持分を有することを肯定したのは失当であつて、論旨第二(二)は、結局その理由があるに帰し、原判決はこの点でも破棄を免れない。

よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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